歯周病は歯を失う怖い病気
歯周病と補綴治療の関係性について
歯周病治療と補綴治療は、一連の流れを持った歯科治療行為の中で、一番重要な治療行為となります。歯周病は、歯肉炎から歯周炎に進行した病状のことで、歯を支える歯槽骨が破壊されていく病気です。強い痛みや腫れの症状が出にくいので、気づかずに進行しますが、ご自身が歯の異常に気づいたときには、歯槽骨の破壊が高度に進行してしまっており、治療が困難な場合や抜歯をしなければならない場合もあり、歯にとっては癌のような恐ろしい病気なのです。
そうならないように、進行を食い止め治療していくのが歯周病治療になります。この治療をきちんと行った後に、崩壊してしまった上部構造を適切な元のご自身の歯と同じように再現する治療が補綴治療になります。この流れが上手くできていなければ、どのような美しい上部構造物を作っても砂上の楼閣となってしまいます。そのようなことがないように、当院では必ず歯周病チェックを行ってから、補綴治療を行っております。
正常歯周組織の歯肉と重度な歯周病に罹患した歯肉の話
現在の歯周病治療の限界をお話させていただきます。歯周病も病気のひとつですので、治癒するのか? 我々歯科医師にとりまして、病気と向き合うときには、治癒の状態目標を立てなければなりません。風邪をこじらせて肺炎となっても、大抵の場合治癒したときには、元の健康状態に戻っているはずです。それでは、歯周病は治癒したら、元の健康な状態に戻るのでしょうか? 答えは「No!」なのです。
右の写真の重度に歯周病を患ってしまった方は、どのような名医が治療にあたりましても、左の写真の正常な歯周組織の状態には絶対に戻すことはできないのです。そうだとしたら歯科医師にとって歯周病の治癒とは?
それは、歯周病が進行しない状態を患者様が維持できる、健康な歯周組織にすることを治癒としているのです。歯周病が進行しないようにするためにありとあらゆる手段を講じて、この正常歯肉を獲得した方の歯肉形態に近い状態を作り上げて行くのです。でも、そのお口全体の治癒形態は写真のような正常な歯と歯肉の関係とは程遠く、いわゆる歯が伸びてしまった、歯が長くなってしまった、歯の根っこが露出してしまったというようなことになるのです。そして、その後に、自然に見せるために後述の歯周補綴も必要となるのです。この道程は、患者様にも術者にも険しい道程を強いられます。
この険しい道程を歩まぬためにも、正常歯周組織をお持ちの方の状態を維持していきたいものです。そのために、転ばぬ先の杖である、専門歯科医院での定期的な口腔衛生管理が必要となるのです。
歯周病を悪化させる原因
糖尿病
糖尿病は、末梢血管をもろくしてしまうため細菌感染しやすくなり、歯周病菌が極端に増殖しやすくなります。そのために糖尿病のコントロールが悪いと、歯周病を極端に悪化させることがあります。
タバコ
喫煙をしている人は、歯肉内部の血行が悪くなり免疫機能が低下していきます。炎症により破壊された組織の修復能力も低下するため、歯周病が進行しやすくなります。
歯にかかる過剰な力
主に、寝ている間の「歯ぎしり」や「食いしばり」のことです。これらの力は通常、物を咬むときの何倍もの力を歯周組織に加えることで、ダメージを与えていきます。この蓄積が歯周組織を破壊し、歯周病を進行させてしまいます。
歯列不正
さまざまな原因で、歯並びが先天的に悪かったり、後天的に悪くなったりします。その歯並びの悪さが全体的な咬み合わせの力の分散を阻害し、局部的に異常な力がかかるようになるため歯周病の原因になるおそれがあります。
薬物の副作用
フェニトイン(抗てんかん薬)やニフェジピン(血圧と不整脈の治療薬)などのカルシウム拮抗薬では、副作用として歯肉の増殖が見られる場合があります。
女性ホルモンバランスの変化
女性ホルモンのプロゲステロン(黄体ホルモン)やエストロゲン(卵胞ホルモン)のホルモンバランスの変化や、妊娠中のつわりなどにより、プラークコントロール悪化などが歯肉の炎症を悪化させます。
口腔乾燥症(ドライマウス)
唾液が減少することで細菌に対する抵抗力が弱くなり、歯周病が進行しやすくなります。
遺伝
遺伝的に細菌に対する抵抗力が強い人と弱い人がいます。重症の歯周病にかかっている方のいる家系では歯周病に対する注意が必要です。また、家族性の問題もあり、家族の口腔細菌状態を観察しますと、同じような細菌叢を示します。理由は、子供の離乳期における親からの口移しにより歯周病がうつるようです。
歯周病と全身疾患の関係
歯や歯茎の健康は口の中だけでなく全身と関係しています。口の中には何百種類という細菌が生息していますが、口から体の中に入り込むと、さまざまな病気(心臓病・肺炎・糖尿病・早産など)を引き起こすことが知られ問題になっています。
心臓病
重症になると歯周病菌による炎症から血栓ができやすくなるため、動脈硬化を招き、心筋梗塞や狭心症などを引き起こすことがあります。また、口腔内連鎖球菌が心臓の内側にある心内膜の炎症を引き起こし、細菌性心内膜炎になる場合もあります。
肺炎
歯周病菌が肺に感染し肺炎になることがあります。
糖尿病
歯周病が糖尿病を引き起こすだけでなく、糖尿病の患者様が歯周病にかかっていると血糖コントロールが難しくなり、さらに悪化してしまう可能性があります。
早産
歯周病菌による口内の炎症が胎児の成長に影響し、早産を引き起こすことがあります。歯周病の妊婦は、歯周病でない妊婦と比べて、早産や未熟児を出産する確率が7倍にもなるといわれています。
歯周病セルフチェック
次の症状に覚えはありませんか? 当てはまるものがある場合には、歯周病にかかっている可能性があります。
- 歯みがきをすると歯ぐきから血が出る
- 硬いものを食べると歯ぐきから血が出る
- 硬いものが咬みにくい
- 硬いものを咬むと歯が痛い
- 朝起きたとき、口の中がネバついている
- 歯ぐきが赤く腫れている・たるんでいる
- 以前と比べ、歯が長くなったような気がする
- 口臭が気になりはじめた
- 歯が浮いたような感覚がある
- 歯ぐきから膿が出ている
- 歯がグラグラする
歯周病検査
歯周病治療は、進行段階をきちんと調べたうえで適切な処置をすることが大切です。当院では次の検査方法によって、歯周病の進行段階を調べます。
ポケット検査
プローブという器具を使って、歯周ポケットの深さを測ります。深ければ深いほど、進行していることがわかります。
動揺検査
歯周病が進行すると、歯はぐらつきを増します。歯をピンセットでつまんで動かし、どの程度揺れるかを調べます。
位相差顕微鏡
位相差顕微鏡とは、お口の中の歯周病菌の種類や数などまで見ることができる特殊な顕微鏡です。近年では薬を用いた歯周病治療が可能になり、この顕微鏡で一人ひとり異なる菌の状態を把握して、適した薬を選択します。
市場町デンタルクリニックの歯周病治療
【歯肉炎・軽度歯周炎の場合】
歯垢・歯石の除去
【スケーリング】 歯と歯ぐきの境目に付着した歯垢や歯石を、スケーラーという器具を使って徹底的に取り除きます。 |
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【ルートプレーニング】 スケーリングでは落とし切れない、歯周ポケットに入り込んだ歯垢や歯石を、キュレットという器具を使って取り除きます。最後に表面を滑らかにみがき上げ、汚れの再付着を防ぎます。 |
【中等度・重度歯周炎の場合】
歯石の除去
【フラップ手術】 麻酔を施したうえで歯ぐきを切開し、歯根の先に付着した歯垢や歯石を取り除きます。 |
再生療法
【エムドゲイン法】 歯周病の悪化によって失われてしまった顎の骨を再生させる治療です。エムドゲインゲルという特殊な薬剤を再生させたい部分に塗布し、再生を促します。 |
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【GTR法】 エムドゲイン法と同じく、顎の骨を再生させる治療です。再生させたい部分にメンブレンという特殊な膜を入れてスペースを確保し、骨補填材などを入れて再生を促します。再生後、メンブレンは取り除きます。 |
歯肉移植
【CTG】 歯周病の悪化によって失われてしまった歯ぐき部分に、上顎の口蓋(こうがい)から採取した結合組織を移植し、歯ぐきを増やす治療です。 |
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【FGG】 歯根の周辺部分に、上顎の口蓋から上皮のついた歯ぐきを切り取って移植し、角化歯肉(コラーゲン繊維が豊富な固く動かない組織)を得て強くする方法です。 |
歯周病と補綴治療の関係
補綴(ほてつ)治療とは、むし歯に冒されてしまった歯を削り、詰め物や被せ物で補い咬む機能を回復させる治療のことです。これは一見歯周病とは無関係だと思われがちですが、そうではありません。なぜならいくら精密な補綴治療を行っても、歯周病をそのままにしていれば、その歯は徐々にグラグラし、最後には抜け落ちてしまうからです。
そこで当院では、むし歯をきっかけにご来院いただいた患者様に対しても、必ず歯周病のチェックを行っています。お口の中の状態をトータルに診察し、決してその場しのぎにならないよう治療を進めておりますのでご安心ください。
補綴治療とは
補綴(ほてつ)治療とは、むし歯や歯周病などで歯の形を失ってしまった状態を被せ物(クラウン)や入れ歯など、人工の歯で補う治療法のことです。古くは紀元前2000~1000年のエトルリア人の墓地から発掘された入れ歯があります。日本でも奈良時代から入れ歯があったといわれていますので、古代人も歯には興味があった証拠ですね。
クラウン |
歯(歯冠)がボロボロになってしまった場合、金属やセラミック素材で元の歯の形を再現する治療法です。これからの時代はジルコニア(人工ダイヤモンド)をベースとしたセラミック素材のクラウンが主流になると思われます。 |
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インプラント |
歯が欠損したところの顎骨に、主にチタン製のねじ込み式の人工歯根を埋め込み、その上にクラウンを被せる方法です。 チタンは生体拒否反応のない唯一の金属で、硬くて丈夫な金属ですので工学的にも安心して使えます。人工の歯根としてご自身の歯と変わりない使い心地です。 |
ブリッジ |
失ってしまった歯の両脇の歯を土台にして、人工の歯を橋のように架ける固定式の方法です。歯が1~2本なくなっても、その両脇の歯がしっかりしているときに行います。 欠点は、むし歯でも何でもない歯を削って土台にしなければならないので、これからの時代はインプラント治療にシフトしていくものと思われます。 |
部分入れ歯 |
むし歯や事故などで多数の歯を失ってしまった場合、ブリッジやインプラントが不可能なカ所を補う装置です。これによって形態や見た目の不良を回復し、食事やしゃべりやすさ、審美性を改善できます。 |
総義歯 |
言葉通り、歯が1本もなくなってしまった顎堤に施す、取り外し式の全部入れ歯のことです。一般的に下顎の総義歯が外れやすく難しいといわれており、その場合はインプラントによる全顎治療や糸切歯の部分も左右2本インプラントを植立し、磁石の力で総入れ歯を固定させてしまう方法があります。 |
美しい口元へ導く最新技術“インターオーラル(口腔内)スキャナー”
口腔内を高速かつ高精度なカメラでスキャニングする印象システム。快適なチェアタイムの短縮を提供するトロフィーカム・インターオーラル(口腔内)スキャナーを導入しています。
すべてをコンピューター制御、設計・制作された、美しく精密な補綴物の作製に必要な口腔内の型をとるための光学スキャナーで、既に欧米を中心とした海外では、日常的に多くの歯科医院でインターオーラルスキャナーが使用されていますが、日本国内の歯科医院での導入は、2.9%にとどまっております。(2019.4.技工士ドットコム調べ)
従来は、患者様の口腔内で粘度のあるアルギン酸やシリコン印象材を使って型をとり、そこに石膏を流し込んで石膏模型を作製していました。それは、患者様にとって、お口の中を粘土質の印象材で覆われてしまうため、かなりの苦痛を伴うものでした。この印象材と石膏を使った2段階の工程を経て作製する方法では、どうしても人的な精度エラーが発生するリスクが高くなるのです。
しかし、オーラルスキャナーを用いることで、印象材を使って型をとる患者様の負担軽減や苦痛に感じる時間を含むチェアタイムの短縮や技工工程での模型作製を省くことでの時間短縮が実現できます。尚且つ、高精度の光学スキャニングにより、奥歯を含め細部まで正確に精密に捉えるのはもちろんのこと、色調まで光学印象により再現できるため、作製過程でリアリティーの高い製作が可能となり、審美性の高い一定の高品質を保ちながら、患者様の美しい口元の実現がより身近なものになったのです。
アナログカメラが廃れてしまったことと同じように、アナログ印象からデジタル印象へのAI化の波が押し寄せております。歯科医師が、そして歯科技工士がAIを制御して、最良の補綴物を制作できることをこの上なく喜びに感じております。そんな波が日常の歯科診療の中にも押し寄せております。